サッカー選手・指導者に必要なケガの知識:第1回
文:大沼 寧 山形徳洲会病院 整形外科部長
第1回:ケガの応急処置について
知っていると役立つケガや障害 に対する知識について、3回シリーズでお送りします。第1回はケガの応急処置についてです。
ケガからの早期復帰を目指す場合、ケガ直後の処置がとても大切です。不適切な処置によって、回復が遅れることは稀なことではあ りません。日本代表のユース年代においては、選手自身によるセルフコンディショニングの重要性を説いています。ユース年代では、過保護にするよりも、自分の体は 自分で管理できる自立したサッカー選手を育てようという考えによるものです。将来、どのような環境下でも通用する選手づくりのためにも、とても大切なことだと思います。みなさんも正しい知識を身につけ、自分で対処できるようにしましょう。
すり傷の処置
スライディングによる擦り傷は サッカーにはつきものです。入浴時や消毒の際の痛みを多くの選手 が経験していると思います。しかし、キズに対する処置法が変わり、 このような痛みを経験せずに済むようになってきました。まず、大切なことは、擦り傷が生じた直後に、キズについた土や汚れを流水でよく洗い流すことです。異物がなくなれば、ほとんどの場合、消毒しなくとも化膿しないで治ります。キズの汚れをしっかりと取り去れば、むしろ消毒をしないほうがキズの治りが良いようです。さてキズがきれいになったら、キズを透明なシールで覆います。するとキズは乾燥せず、キズが衣服などで擦れて痛むこともありません。そのまま入浴も可能です。キズは乾燥しない方が早く治ります。シールは数日間、貼りっぱなしで構いません。このようなシールは病院にありますが、最近では薬局などでも購入可能です。正しい方法を一度病院で習うと良いでしょう。 深いキズや汚れがひどいキズは病院で処置してもらいましょう。
止血法
サッカーにおいては、へディングなどの接触で頭部や顔面に裂創が生じ、出血を生じることがあります。この際の止血法は、ガーゼなどでキズを圧迫する直接圧迫法が良いです。頭部や顔面は血行が良いので、切ると出血が多いように感じますが、直接圧迫法でほとんどの場合、止血が可能です。手足のキズの場合、キズよりも心臓に近い部分を押さえる間接的圧迫止血法がありますが、手技が難しいので、どの部位でも基本は直接圧迫法です。血液には様々なウイルスが含まれている可能性がありますので、他人の血液は素手でなるべく触らないようにしてください。
打撲や捻挫に対する処置
大切なRICE処置を覚えましょう。R(rest:安静)、I(icing:冷却)、C(compression:圧迫)、E(elevation:挙上)です。
ケガからの早期復帰のカギはRICE処置による患部の腫れを最小限にすることです。ケガの直後から行うことが大切です。局所と全身の安静をはかり、局所をアイシングし、軽度圧迫を加え、心臓より高い位置に挙上することで、患部の腫れを最小限にすることができます。アイシングは1回15分から20分、40~60分間隔で、間欠的に行うと効果的です。
腫れはケガをしてから5~6時間経った頃に激しくなってきますので、受傷直後から半日~1日はRICE処置を継続してください。RICE処置を実行している選手は、直後からのRICE処置の大切さを実感しています。
足首の捻挫は怖い
足首の捻挫はサッカー選手にとって頻度が高いものですが、軽くみてしまい、適切な処置がなされないことが多いようです。すると、足関節のゆるみが残り、捻挫を繰り返しやすくなったり、慢性の関節炎を抱えるようになることも稀なことではありません。捻挫は程度の差はあっても靭帯損傷が生じているのです。損傷直後からRICE処置を行い、靭帯の早期修復を促しましょう。大切なゲーム中の損傷であればプレー続行も仕方がないことですが、明日以降のことを考え、プレーを中断する勇気を持ってください。損傷した部位に負担がかからないトレーニングは可能ですので、リハビリ=休みではありません。プラス思考で、これを良い機会と考え、普段できないウイークポイントの強化にあて、ケガからの復帰と同時に、レベルアップをはかりましょう。
単なる捻挫でないこともあります。
Rush No.41より