サッカー選手・指導者に必要なケガの知識:第2回
文:大沼 寧 山形徳洲会病院 整形外科部長
第2回:膝関節のケガや障害について
知っていると役立つケガや障害に対する知識について、第2回目は、膝関節のケガや障害についてです。下肢を激しく使うサッカーでは、膝のケガや障害によく遭遇します。膝のケガや障害に対処する上でも、前回お話しした、RICE処置やセルフコンディショニングは、とても大切なことです。受傷直後からのRICE処置は早期復帰のために大変重要ですし、自分のコンディションを自分でコントロールできればケガや障害に悩まされることが少なくなります。コンディション作りを通して自分の体への理解を深めることはサッカーのレベルアップにもつながります。
膝のケガ
様々なステップワークを身につけ、ケガの防止と同時にサッカーの向上を
膝周囲の打撲や膝関節の捻挫に対しては、前回お話ししたRICE処置を受傷直後から行います。この処置によって回復期間の短縮を図ります。ケガの程度がひどい場合は早期に病院を受診すると思いますが、軽い場合は病院に行かずに自然回復を図ることもあるでしょう。そんな場合に、時に問題となる膝のケガについて紹介します。
1.靭帯損傷
内側側副靭帯損傷:
膝の外側からタックルを受けて損傷することが多いケガです。とても痛いケガですが、ほとんどの場合、膝のサポーターやテーピングによって自然に治ります。初期の治療が大切で、不適切な処置では不安定感が残存することもありますので、とても痛い場合は早期に病院を受診することをおすすめします。
前十字靭帯損傷:
これはサッカー選手にとってやっかいなケガです。というのは多くの場合、手術が必要で復帰には数ヶ月を要すからです。内側側副靭帯損傷と異なり、他の選手との接触なく損傷する場合も多く、受傷直後の痛みが軽いことも重なり、軽くみてしまうことがあります。痛みは軽くとも、膝の不安定感のためサッカーが思うようにできなくなります。膝の捻挫と思っていたのに膝の不安定感が続く場合は一度、スポーツ整形へ。
2.半月板損傷
膝をひねった際に、柔らかい軟骨である半月板にキズがつくことがあります。
小さなキズであれば、3~4週で自然に痛みが取れてきますが、キズが完全に治らないこともあります。この場合は、サッカーはプレー可能でも、無理すると痛みが出たり、練習後に痛みが出たりします。プレーに支障をきたすようであれば、内視鏡手術がおすすめです。
前十字靭帯損傷と異なり、半月板の手術は日帰りで行っている施設もあり、復帰も1~3ヶ月程度です。
これらのケガは避けられないこともありますが、トレーニングによってケガをしにくい体にすることは可能です。バランストレーニング、体幹の筋力トレーニング、様々なステップ動作の習得によって、膝を不用意にひねることがなくなります。これはボディーバランスの向上につながり、簡単に倒れない、競り合いに強い選手にもなります。激しいタックルに対しては無理に踏ん張らずに倒れてしまう方が大怪我をしないで済みますが、ボディーバランスが良いと、踏ん張るか、倒れるかの瞬時の判断にもゆとりができるはずです。
膝の障害(慢性の痛み)について
ウオーミングアップと クーリングダウンの大切さ
膝の痛みを抱えながらサッカーをしている選手はとても多いです。代表的な疾患は、成長期のオスグット病や膝蓋靭帯炎などです。この慢性の痛みと上手に付き合いながらサッカーを休まずに治していくには、日頃のケアが大切です。痛みを生じている原因(走り方、筋力、柔軟性、トレーニング方法、トレーニング環境など)をつきとめ、それに対処することが大切です。症状の改善が思わしくない場合は、専門の医療機関で原因をつきとめてもらい、正しい対処法をアドバイスしてもらうと良いでしょう。
日々の積み重ねによって障害は生じるので、ウオーミングアップとクーリングダウンをおろそかにしてはいけません。どちらも大切なトレーニングメニューであると考えるべきです。毎回正しく行うことによって、「今日はここが張っているなあ」などと自分のコンディションを把握することができます。障害の芽を早めに摘み取るセルフコンディショニングを心がけてください。優秀なスポーツ選手の多くは、ケガに強い選手、ケガしない選手たちです。
Rush No.42より