サッカー選手・指導者に必要なケガの知識:第3回
文:大沼 寧 山形徳洲会病院 整形外科部長
1.サッカー選手の腰痛
急性の腰痛に対する対処法は安静が基本です。入浴などで温まるとさらに痛みが増強することもありますので、軽く汗を流す程度にとどめて、ベット上で安静にしてください。腰を軽く曲げた状態が腰部の安静のポジションですので、腰がそってしまううつ伏せや仰向けではなく、横向きが良いでしょう。膝と膝の間に大きめのクッションを入れると骨盤のねじれが少なくなり、より楽に感じます。仰向けの場合は、腰のそりを軽減するために膝の下にクッションを入れると良いでしょう。慢性の腰痛に対しては、腰痛を生じた原因(走り方、蹴り方、筋力、柔軟性、トレーニング方法、トレーニング環境など)をつきとめ、それに対処することが大切です。さらに日々のセルフコンディショニングを行ない、改善をはかって下さい。筋肉の柔軟性が低下していることが多いので、体を温め、筋肉の緊張を取り、さらにストレッチによって柔軟性を取り戻すようにしてください。改善が思わしくない場合は、専門の医療機関を受診してください。ここでは、時に問題となる腰部の疾患を紹介します。
1. 脊椎分離症(疲労骨折)
腰部の回旋や伸展が繰り返されることで、腰の骨に亀裂が入ることがあります。腰椎の疲労骨折と考えられており、サッカー選手には多く見られ、時に本人は自覚していないこともあります。強い腰痛が出現した時や1ヶ月以上続く腰痛が出現した際には、この疲労骨折が疑われますので病院を受診してください。レントゲン写真では判明しないこともあり、その際にはCT検査を行ないます。
2. 椎間板ヘルニア
椎間板が突出し下肢へ通じる神経を圧迫することで、腰痛もしくは下肢痛が生じる疾患です。症状が長期化することも稀ではありません。殿部や下肢の痛みが続く場合や慢性の腰痛が続く場合には腰椎ヘルニアが疑われますので病院を受診ください。MRI検査でヘルニアの状態がわかります。
2. 腰周囲筋の柔軟性
腰痛を抱えている選手の多くに、腰周囲筋や下肢筋肉の柔軟性の低下を認めます。正しいストレッチを行なうことで筋の緊張を低下させると、その場で腰痛が軽減することも稀なことではありません。ストレッチは、呼吸を止めずに20秒から30秒間、伸ばしている筋肉を意識しながら、行ないましょう。
3. 体幹の筋力アップ
両下肢の筋力のアンバランスや体幹の筋力不足が腰痛の原因となることもあります。サッカー選手は大腿四頭筋(太ももの前の筋肉)は発達していますが、この筋肉が優位に働きすぎて問題を起こしている場合があります。拮抗筋であるハムストリングス(太ももの裏の筋肉)や大殿筋(お尻の筋肉)の強化が大切です。また足を引き寄せる動作が多いサッカーでは、股関節内転筋が発達していることが多く、内転と外転力がアンバランスな選手が見られます。外転筋(中・小殿筋)は片足立ちのバランスに重要な筋肉でもあり、強化を図りましょう。腰周囲の脊柱起立筋や腹筋の強化も同時に行なうと体幹のパワーアップが図れます。体の中心に近い筋肉が強くなると、ボディーバランスにすぐれ、競り合いに強い選手になります。
4. 日頃のケア
腰痛が改善したら、再発しないように日頃のケアをしっかり行ないましょう。腰痛が生じやすいこと(中腰での作業、長時間の座位や立位など)を避け、サッカー練習前後は十分なウオーミングアップとクールダウン(チームのメニューに個別のメニューも加える)を行ない、毎晩のストレッチで筋の柔軟性を確認するなど、セルフケアを継続してください。
Rush No.43より